50歳を過ぎてから大学へ。看護を学び続け、自身の想いを叶える。|かのん訪問看護リハビリステーション 籾木なつ美

在宅医療介護の現場で働くひとたちの想いを伝えるインタビューメディア「メディケアワークス」。

今回は、中川区にある「かのん訪問看護リハビリステーション」管理者の籾木なつ美さんにインタビューしました。
籾木さんは、なんと50歳を過ぎてから、改めて看護を学ぶために大学へ入られたそうです。豊富な看護経験があるのにも関わらず、学び直すというのはなかなかできることではありません。その目的は育成のため。よりよい育成のためには、ご自身が学び直しが必要だと考えたからだそうです。籾木さんがいかに育成に向き合っているのかを感じられるエピソードだと思いました。

籾木さんがどんな思いを持って日々の看護に取り組んでいるのか。ぜひその思いをご覧ください。

インタビューの様子は動画で公開中!ぜひご覧ください。

身体と精神、両方の看護とリハビリを提供できるのが強み。

「かのん訪問看護リハビリステーション」管理者・籾木なつ美さん

 ー自己紹介をお願いします。

かのん訪問看護リハビリステーション、管理者の籾木なつ美です。当ステーションを運営する株式会社奏多の代表取締役でもあります。職種は看護師で、認知症ケア専門士の資格も持っています。

 —事業所の紹介をお願いします。

かのん訪問看護リハビリステーションは、令和4年7月1日にオープンしました。「寄り添いを大切に、地域に奏でる安心の輪」という理念のもと、在宅生活をサポートしています。

所属人数は、管理者を含め、看護師は7名、作業療法士が1名、事務1名の合計9名です。オープニングメンバーは看護師5名だったのですが、この半年で2人の看護師が加わりました。展開エリアは、中川区、港区、中村区、熱田区、蟹江町、大治町、あま市七宝町となっています。

強みは「身体と精神、両方の看護とリハビリが提供できること」です。作業療法士は、精神科病院での経験があり、精神疾患と認知症を得意としています。

やり残した思いを叶えるためにステーションを立ち上げ。育成のために、50歳を過ぎてから看護を学び直す。

 — 事業所を立ち上げたきっかけを教えてください。

私は以前、医療法人の訪問看護ステーションで、管理者を20数年やっていました。大きな組織の中で、守られながら仕事ができていたのはすごく幸せなことでした。ただ、大きな組織だと、なかなか動かせないこともありました。やり残したことがあるなと感じていたんです。

やり残したことの一つ目は、後進の育成です。当時は、私に代わる管理者が育成できませんでした。また、卒後1年目の看護学生の受け入れができませんでした。看護学生の方から就職したいというメールをいただいたのですが、私に育成する自信がなくて。そもそも受け入れ体制がないことや、当時の私には教育プログラムの知識がなかったんです。

卒後1年目の訪問看護師は「キラキラナース」というネーミングが付けられています。数年前、「キラキラナース育成研修会」という全国訪問看護事業協会が主催の研修会があったんですね。私は、自費で何度も東京に行って、その研修会に参加しました。そこで出会った、全国の訪問看護ステーションの看護師さんの育成に対する熱い気持ちに、すごく刺激を受けたんです。「いつか自分も育成をしたい!」という想いに至りました。

二つ目にやり残したことは、在宅リハビリの取り組みです。リハリビをやりたいと思っても、当時は、なかなか稟議が通らなかったんです。

「やり残したことは、次のステージでやりたい」と思い、ステーションを立ち上げることにしました。ただ、一人で立ち上げるのはすごく勇気がいることです。不安もあったのですが、作業療法士をしている私の息子が一緒に訪問看護をやりたいって言ってくれました。勇気をもらえましたし、やり残した在宅リハビリも実現できるなと思い、会社を設立することに決めました。私は、経営に関して素人ですし、アナログなステーションしか知らないのですが、息子や事務スタッフの若い力でICTの導入も実現できています。働きやすい職場になっていると思いますね。

 — よりよい育成体制を作るために、何か取り組んだことはありますか?

看護学生を指導している中で、私は古い看護しか知らないんじゃないかと感じることがありました。実際、私が受けていた教育と今の教育を比べてみると、カリキュラムも全然違います。それで、よりよい育成のためには「自分自身の学び直しが必要だ」と思い、放送大学に入学したんです。

放送大学の先生からは「災害看護もやってないじゃない」「老年看護もやってないじゃない」「在宅看護もやってないじゃない」「あなたはいつ看護学校卒業なの?」などいろいろ言われたんです。その時に、看護師を何十年とやっていたとしても、いろいろな知識が不足しているなと感じました。50を過ぎてからの学び直しということで、大変でしたが、看護の幅も広がりました。育成面での幅も広がると思いますね。

病気は母性まで奪う……。涙ながらに訴える利用者さんの言葉に、訪問看護の役割の重要性を知った。

 今までで一番印象に残っている利用者さんのことを教えてください。

病院に入院していた乳がんのターミナル期の方でした。その利用者さんが外泊をすることになり、外泊時の訪問看護で介入することになりました。この利用者さんにとって最期の外泊になるかもしれないという状況で、病院としては、小学生のお子さんと過ごせるようにという配慮もありました。

その利用者さんがご自宅に帰ってきたとき、私に対して「私の余命を聞いていますか?聞いていたら教えてください。なぜ、病院は私を家に返したがるんでしょうか?私は帰りたくなかったんです。私の家は普通の家ではありません。休まりません。緩和ケア病棟へ行きたいです。」と泣きながら言われたんです……。私は何も返すことできなくて、ただ、絶句するだけでした。

そのときは、ご本人、旦那さん、お子さん2名の合計4人で、実家でご両親に面倒みてもらうことになっていました。しかし、実家には精神疾患を持ったお姉さんもいらっしゃったんです。お母さんは、そのお姉さんにかかりっきりで。お父さんも「本来なら母親が病気の娘に寄り添うというのが一番なんだけどできないんです。すまない気持ちでいっぱいです。」ということを私におっしゃっていました。

ご本人も「自分のことで精一杯なのに、自分の子どものことまで考える余裕がない」と仰っていて。「病気は母性まで奪うのか」と切ない気持ちになったのを覚えています。本人にとって家は休まる場所じゃなかったんだな、どんな時でも在宅が一番ということではないのだなと思いました。

この家族背景は、病院も知らなかったようです。退院調整の看護師さんに一連のことを共有したところ、絶句されていました。実際、家族背景について、病院の看護師さんは何も相談を受けていませんでした。病院の看護師さんたちが忙しそうにしている姿をみて、相談する時間なんてないと、ご本人は思ってしまい、話せなかったようです。

家族背景の奥深いところは、家の中に入らないと分からないなと。病院看護だけだとそれらを知るのは難しいのだと思います。訪問看護がご本人の病院の間に入り、病院受診で話せないことを、代弁し、伝える。これも訪問看護のすごく大切な役割だなと思っています。訪問看護の存在や役割の大きさを実感したできごとでした。

訪問看護は「一番身近な相談できる存在」。一つひとつのケアを丁寧に、利用者さんとの信頼関係を築く。

 — 看護を提供する上で大切にしていることはなんですか?

「この看護師なら安心して任せられる」と思ってもらえるように、信頼関係を築くことが大切だと思っています。そのためには、ありきたりですが、一つひとつのケアを丁寧に行っていくことが必要だと思っています。

以前勤めていたステーションでは、母体に精神科病院がありました。当時、精神科の訪問看護は私も初めてでしたが、未経験でも一つずつ丁寧に実績を積み上げていったら、リピーターになっていただけました。一つひとつのケアを丁寧にやることの重要性を学びましたね。

また、医療は日々進化しています。さまざまな情報や知識を積極的に学んでいくという精神は必要だと思います。当ステーションでも、年齢、経験は関係なく、学ぶ姿勢を大切にしています。私も分からないことは若い方に教えてもらっていますね。

 — 籾木さんにとって訪問看護とは?

訪問看護は「利用者さんにとって、一番身近な相談できる存在」だと思います。生活を看られるのが訪問看護師です。その人らしい人生が送れるように、寄り添っていきたいなと思っています。

 — 利用者さんにとって一番身近な相談できる存在だと実感したエピソードはありますか?

このコロナの時期だと、人になかなか会えないじゃないですか。そのような中で、家族以外で相談できるのが、私たち訪問看護師かなと思います。

実際、これまでに、何名かのコロナに罹ってしまった利用者さん宅へ訪問することがありました。コロナに罹患すると、遮断されてしまい、家族も怖くて行けないという状況になってしまいます。食べるものがないと言われたので、買ってきたものをを防護服を着て届けるということもやりました。コロナに罹った方の生活の様子を看られるのは、訪問看護師だけじゃないかなと思います。

コロナ患者さんのお看取りもしたことがあります。おうちで看取るまで、チームみんなで話し合いながら進めました。そこで生まれた一体感や、協力し合いながら利用者さんを支えるということは、訪問看護の醍醐味だなと感じます。在宅の力を実感しましたね。

今回お話を聞いた方について

かのん訪問看護リハビリステーション

管理者 籾木なつ美

株式会社奏多 代表取締役、かのん訪問看護リハビリステーション 管理者 看護師。

名古屋医療センター附属名古屋看護助産学校 看護科卒業。
同センターの救命救急センター勤務。
その後、医療法人の訪問看護ステーションで管理者として20数年勤務。
2021年 株式会社奏多を設立。
2022年7月 かのん訪問看護リハビリステーションを開設、運営。
認知症ケア専門士。
プラチナナースとして地域貢献していきます。

籾木さんが働く事業所はこちら

事業所名かのん訪問看護リハビリステーション
サービス種別訪問看護
住所愛知県名古屋市中川区野田1丁目487 アーバンドエル高畑公園104号室
お問い合わせ052-398-5985
ウェブサイトhttps://kanonkango.com/