もし、”何もしない訪問”が続いたらどうしますか?そこにある訪問看護の存在価値とは。|訪問看護キープオン守山 寺澤亜希

在宅医療介護の現場で働くひとたちの想いを伝えるインタビューメディア「メディケアワークス」。今回は、守山区にある「訪問看護キープオン守山」管理者の寺澤亜希さんにインタビューしました。

「何もしなくても成り立つ訪問ができているときは、プロの訪問看護師になれているんだよ」とスタッフに伝えている寺澤さん。その言葉を聞いて、ふと「看護」という言葉の語源が気になりました。

看護とは、古くは人間の母性愛、母親のいたわり、思いやり、子供の世話などを起源とし、人間の生活とともに存在してきた活動であるが、やがて傷病人や老人などの世話をする看病と同義となった。

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看護の起源は、いたわりの心や、思いやり。そして、看護は日々の生活の中にもあるということです。

私たちは「看護師」というと、医療処置をしてくれる専門家と捉えがちです。医療処置は、看護師の大切な仕事の一つではあるものの、看護の根本には、専門職を超えた「人と人の関わり合い」があるのだと思います。そしてその関わり合いこそが看護の本質なのだと感じました。

今回の寺澤さんのインタビューは看護の本質に迫るものになっています。寺澤さんがどんな想いを持って日々の看護に取り組んでいるのか。ぜひその思いをご覧ください。

インタビューの様子は動画で公開中!ぜひご覧ください。

スタッフ総勢41名。協力し合う組織カルチャーと、圧倒的なマンパワーで、土・日・祝・夜間問わずしっかりと訪問できるのが強み。

訪問看護キープオン守山・寺澤亜希さん

 ー自己紹介をお願いします。

訪問看護キープ守山の寺澤亜希と申します。管理者をさせていただいております。

 —事業所の紹介をお願いします。

事業所は、名古屋市守山区の小幡駅の近くにあります。現在、スタッフは看護師が19名、セラピストが18名、事務員が4名です。訪問エリアは、守山区、名東区、千種区、東区、北区、尾張旭市、瀬戸市、春日井市です。

当ステーションの強みはマンパワーですね。スタッフがたくさん集まってきてくれて、退職者も本当に少なく、この10年回っています。スタッフがたくさんいるので、土日祝、夜間もしっかりと訪問できます。

 —退職者が少ない理由はどういったところにあると感じますか?

スタッフみんなが仲良く、協力し合いながら仕事ができているからだと思いますね。私は管理者ではあるのですが、あぁしなさい、こうしなさいってことは一切言っていなくて。スタッフ自身が考えて、思うように訪問してもらっています。若いスタッフからベテランまでいるのですが、ディスカッションがうまくできていて、フォローし合う環境があります。スタッフ同士、うまくやれているので、退職が少ないのかなと思います。

在宅看取りでは、悲しくてワンワン泣いている家族はいない。苦しみも喜びも共有しながら、最後の夢を叶えるのが訪問看護。

 — 入職したきっかけを教えてください。

以前も、別の訪問看護ステーションにいましたが、在宅看取りをしたいという思いが強くなってきまして。そのステーションで在宅看取りをするのは難しかったので、思い切って転職することにしました。それがきっかけです。

 — 今までで一番印象に残っている利用者さんのことを教えて下さい。

印象に残っている方はたくさんいるのですが、一番はお祭りに出たくて退院してきたがん末期の方です。お祭りまでは1ヶ月弱ぐらい。状態も上がったり下がったりで、麻薬を調整しながら支えていましたが、お祭りの頃にはもう車いすにも乗れないぐらいの状態でした。

お祭り当日の朝、訪問したら、腹水で膨らんだお腹に「へのへのもへじ」が描いてあったんです。ご本人が「描け、描けー」って奥さまに言われたそうで。それで、奥さまも喜んで描いたということでした。ご本人そっくりな、すごくいい、穏やかな顔の「へのへのもへじ」でしたね。

「この腹で祭りに出る」と言われて、消防団の方と看護師2人で、車椅子に乗せてお祭りへ向かいました。会場に着いたら、みんなに「へのへのもへじ」を見せながら、すごい笑顔で。前日も本当に状態がよくなかったので、ちょっとあり得ないぐらい。ご長男や近所の方もすごく喜ばれていました。

実は、お祭りには、往診のドクターに許可を得ず、行きました。本人の夢を叶えるために退院してきたので、ダメだと言われないと分かっていたんです。お祭りに参加しているご本人の笑顔の写真を往診の先生に送ったのですが、もう大喜びでした。「よかったね!」って。そして、その方はお祭りの翌日にお亡くなりになりました。お祭りに行くことが最後の夢でしたが、それを叶えることができました。ご本人、ご家族、近所の方、往診の先生など、関わるすべての方が喜んでいました。

ご本人に予後の話をしたときも、「そんなことはいいんだ。最期に残された時間の中で、お祭りに出たらすべて完結する」とおっしゃっていました。本当に、言われた通りにして亡くなられたので、きっと素敵な時間だったんだろうなと思います。今でも、奥さまに年に1回お会いしに行くのですが、「何十年、一緒にいた中で一番の1ヶ月間だった」って言われたんです。
これが、私がしたかった看取りで、在宅の看護だなと。在宅らしい看取りで、すごくいい看取りだったと思っています。他にもいっぱいあるのですが、このエピソードが今までの中で、一番思い出に残っていますね。

 在宅ではご家族にも負担がかかると思いますが、ご家族に対してはどのように接していますか?

「何もしなくていいよ」という言い方をいつもします。「やることは全部こっちでするから、横にいて見守っていてくれればいいし、声をかけてもらえるだけでいいんだよ」って。その言葉が救いになったって後から言われることもありますね。ご家族が「やらなきゃ、やらなきゃ」という気持ちにならないようにして、その上で支えるようにしています。

あとは、ケアマネージャーさんと相談して、ヘルパーさんを看護と看護の間に入れてもらうような調整もします。ご家族が、少しでも身体的な介護負担から逃れられるようにすると、心の余裕も出てくるんです。途中、何回もご家族が「もう無理だ」となっても、結局最期看取ったときにはみんな笑顔なんですよね。

私も病院でたくさんお看取りしてきました。病院では、家族が来るとみんな泣いているんです。一方で、在宅でもう悲しくてワンワン泣いている家族は今のところいません。ゼロでした。もちろん涙は流れているんですけど、顔は笑顔でニコニコしていて。「よかったね、よかったね」って。ご家族も、ご本人が苦しんでいる姿をずっと見ているので、「よかったね、頑張ったよね」という気持ちがスッと出てくるんですよね。

それが病院と在宅の看取りの違いだなって、在宅でたくさんお看取りをしてきて感じます。

看護師のエゴをグッとこらえて、ご本人やご家族が本当に望んでいることにフォーカス。夢を叶えるために何ができるかを常に考える。

 — 看護を提供する上で大切にしていることはなんですか?

私が一番大切にしていることは、「本人やご家族の夢や想いを常に叶えてあげること」です。

今も、がん末期の方で、エアマットを入れないと、すぐにでも褥瘡ができそうな状況の方がいるのですが、ご自身の布団で寝ています。それは「自分はこの布団で寝たくて帰ってきたんだ」という言葉があったから。その言葉を聞いて「その布団で寝ましょう」って。自分の布団で寝ることが、その方の目標・夢で、それを叶えるために帰ってきたのに、褥瘡ができるできないという結果を求めているのは、こちらの勝手な話だなと思うんです。

ケアマネージャーさんは心配して、「エアマット、本当に入れなくていいんですか」って言われたんですけど、本人が自分の布団でいいって言っているからと。褥瘡ができることは何の問題でもないし、いいんですと。常にそんな感じです。
吸引したくないっていう人にはどれだけ痰でゴロゴロいっていても、本人が「この機械を使って吸って欲しい」って言われるまで吸わないというのが私の定義です。ただし、説明はしっかりとします。説明と同意は非常に大事。「吸っている間は苦しいけど、吸った後は楽になるからやってみる?」と聞いてみても、「やらない」と決めた人にはやりません。

きっとスタッフの中にはやった方がいいのではないかと、うずうずしている者もいると思います。しかし、訪問させてもらっているのは、私たちのホームではなくて、利用者さん、ご家族のご自宅。私たちのエゴや医学的なものを出してまでやることではないのかなって思っています。

説明した上で、苦しいけど、そのあとが楽だからやってほしいっていう方ももちろんいます。そういう方にはちゃんと適宜吸引します。「すっきりしたけどもう二度といいです」って言った患者さんもいたので、本当にやらないって本人が決めたときには、どれだけ痰がたまっても、他でぬぐう方法を教えてあげたり、出し方を教えてあげたりして、吸引器を使わないっていうやり方をしています。

 — ご本人の夢や想いはどのように聞き取っていますか?

「観察とコミュニケーション」を大事にしています。そして、同じ質問を複数回繰り返します。そうすると、同じ答えがずっと返ってくる方と、毎回少しニュアンスが変わってきたりする方がいるんですね。ニュアンスが変化する方は、気持ちが定まってないんじゃないかと捉えて、1週間で同じ質問をずっと繰り返していきます。そうすると、「実はね」と話してくれるんです。

先程のエアマットを入れたくない方についても、ご自身の布団で寝たい理由をお伺いすることができました。その布団は、当時すごく高くていいものだったのを親に買ってもらったそうです。ずっと布団を使ってきて、何回も手入れをしてきたと。「この上で死ぬのが僕の目標なんです。看護師さんの言っていることもわかるけど、僕の想いも叶えてください」とはっきり言われました。そこで「この布団でも褥瘡ができないためにできることをしよう」と決めました。

ご本人の想い、目標、夢は変わりません。であれば、できてしまう褥瘡をいかに防げるかを私たちが考えながら、寄り添っていくことが大事だと思っています。

 — ご本人の想いと医学的な視点のどちらを優先すべきか、スタッフと議論になることもありますか?

あります。すごく話し合いもします。そして、「本当にどうして欲しいかを聞いてきて」といつも伝えています。ご本人やご家族が何を望んでいるのか。ご本人とご家族で望んでいるものが全く逆のこともあります。その場合は、どこで折り合いをつけ、お互いが歩み寄れる場所を見つけるのか。私たちの気持ちや考えではなく、ご家族とご本人の想いを聞いて、そこをゴールに進めていこうという話をしますね。

看護師なので、脱水だから点滴したくなる、褥瘡があるならエアマット入れたくなります。しかしその感情をグッと抑え、ご本人やご家族が本当に望んでいることにフォーカスすることが、在宅では大切だと思っています。
偏っていると思われる方もいると思います。しかし、いつもそうしているわけではなくて、説明と同意のもと、ご本人やご家族が本当に望むことを聞きだし、それを叶えるためにケアをしています。

訪問看護は、残された貴重な時間に関わらせてもらえる「贅沢な仕事」。在宅は広くて奥深くて人間的。

 — 寺澤さんにとって訪問看護とは?

終末期の方に関しては特にそうですけど、最期の残り少ない時間を、その方のお家に上がらせていただいて、大切な時間、貴重な時間を共有させてもらえる。そんな仕事ってなかなかないですよね。「贅沢な仕事」だなといつも思っています。

最期の時間って、家族ですごく大事にしたい時間のはずで。家族だけで残りの時間を過ごしたいのに、訪問看護師や訪問診療やヘルパーさんを入れないとご自宅でのお看取りってどうしてもできなくて。私たち、訪問看護は、その貴重な1時間に関わらせてもらっているんです。そして、自分たちがしたくてやっていることなのに、ご家族から感謝されてしまう。なんて贅沢な仕事なんだっていつも思っています。

時間に限りがある中で、お邪魔させてもらっているので、一分でもムダにしないようにしたいと思っています。1時間っていう訪問枠があったとしても、1時間訪問しなきゃいけないというルールにはしていなくて。できる仕事をして、ご家族やご本人が「いいよ」と言ったら退出すると決めています。「もっといてほしい」という場合であれば、できる限りの最大限の時間まで訪問させてもらいながら、私たちができることをしています。

お看取りは人それぞれ毎回違います。同じものは絶対にありません。お看取りのたびに、ご本人やご家族の想いを感じています。自宅にはその方が生きてきた背景や趣味など、その方を知るヒントがいっぱいあり、そこから自然と会話が生まれてくるんです。看護師と患者さんというよりも、遊びに来たとか、ちょっとケアをしに来た近い人、みたいな感じで、利用者さんの中には、私たちのことを看護師だと思っていないのではないかというくらいの方もいます。そんな深い関係性の利用者さんのお看取りは、その方の人生も含めて看護させてもらっているなといつも思います。

最期ギリギリまで一緒に趣味について話し合ったこともありますね。他の訪看さんもそうされていると聞きました。その訪看さんは、利用者さんが趣味だったウクレレを教えてもらっていたそうです。そして、看護師さんに教えたウクレレを聞きながら息を引き取られたとのことでした。その話を聞いたとき「あぁ、自宅ならではだ」って。自宅ってすごいなと思いました。

 — 訪問看護の価値ってどのようなところにあると思いますか?

丸1年、一度もバイタルも測らせてもらえない利用者さんがいました。でも、毎週必ずうちのスタッフが行くんです。キャンセルもない。奥さまとお話をして、その横で話を聞いているご本人がいる。1年間、ずっとそれが続きました。それでも、その看護師は訪問し続けたんです。だって、「来ないで」と言われないですし、帰るときには「ありがとう」と言われて帰ってくるんです。そして、ちょうど1年が経った日。「ちょうど今日で丸1年ですよ」と伝えたら、腕を差し出してくれて、初めてバイタルが測れました。

それを聞いたとき、「すごい」って思いましたね。そこにあるのは「人として」の関わりなんです、「看護師として」じゃなくて。人としてその方に寄り添うことができたから、利用者さんがスタッフが来る意義を感じてくれたのかなって。だから、訪問は断られなかったし、今でもずっと訪問が続いているんだと思います。

毎月のケアマネージャーさんのモニタリングで「看護師さんに何をしてもらっているの?」と利用者さんが聞かれると「お話聞いてもらっているの」と。「それだけ?」みたいな話もやっぱり出ます。うちのスタッフも不安になるんですよね。「私、本当にこのまま訪問を続けてもいいですか」って。

もちろん、何かをしに行くことが訪問看護師の仕事ではあるのですが、そこにプラスして、訪問したスタッフの存在自体に意義がある。そして、そこに1人30分だと500円という報酬を利用者さんが払う。その方の大事な資産の中から500円を支払ってでも、毎週来て欲しいと思われるって、すごい価値だなと思っています。

何もしなくても成り立つ訪問ができているときは、プロの訪問看護師になれているんだよと、スタッフに話しています。在宅って広くて深くて人間的だなって思いますね。

今回お話を聞いた方について

訪問看護キープオン守山

管理者 寺澤亜希

静岡県立大学看護学部 卒業。
脳外、不妊治療外来、循環器科を経て、訪問看護を初めて12年になります。

寺澤さんが働く事業所はこちら

事業所名訪問看護キープオン守山
サービス種別訪問看護
住所愛知県名古屋市守山区小幡中1-35-16 深河ビル2E
お問い合わせ052-794-7931
ウェブサイトリニューアル中