「お看取り」への想い。患者さんが本当に望んでいる看護とは。|れんげ訪問看護ステーション 星野智穂弥

在宅医療介護の現場で働くひとたちの想いを伝えるインタビューメディア「メディケアワークス」。今回は、名古屋市守山区にある「れんげ訪問看護ステーション」星野智穂弥さんにインタビューしました。

看護を提供する上で「自分がされて嫌なことは、絶対にしない」ということを大切にしているという星野さん。
pooマスターとして排泄ケアの取り組みや、お看取りの実績の豊富さなど、質の高い訪問看護を提供されています。 インタビューを通じ、星野さんの看護の根底には、自分も含めた関わる全ての人に対する愛情があるのだと感じました。 自分も他者もいたわりながら、「困ったことがあっても必ずいい方法はあるはず」という前向きな気持ちで、看護と向きあう。

そんな星野さんがどんな想いを持って日々の看護に取り組んでいるのか。ぜひご覧ください。

インタビューの様子は動画で公開中!ぜひご覧ください。

「POOマスター」を取得。利用者さんの排便周期を探り、その人にあった対応方法を見つけ出す。

れんげ訪問看護ステーション・星野智穂弥さん

 ー自己紹介をお願いします。

愛知県名古屋市守山区にあります「れんげ訪問看護ステーション」の星野です。職種は訪問看護師です。
看護師になって28年、訪問看護師歴は22年目になりました。6年前に訪問看護認定看護師の免許を取得して、本年度、特定行為研修を受講している最中です。

また、「POO(プー)マスター」も取得しました。うんこの勉強をして、下剤や排便周期などを皆さんに上手に活用してもらえるよう、普及活動を行っています。

 —「POOマスター」は看護師さんが取得する資格なのですか?

看護師だけでなく、介護士さんやセラピストさんでも取得できます。排便については私も、学生のときに習ったきりだったのですが、改めて学び直すと意外に勉強になって、患者さんのお役にも立っています。うちのスタッフも、何人か取ってくれています。

 —便について学ぼうと思ったきっかけはありますか?

石川県で「POOマスター」を普及している、医学博士で看護師さんの方に影響を受けました。その方に便について学んだら、とても深くて、おもしろくて。

 —訪問看護の現場でも役立つような実践的な内容を学べるのですか?

はい、そうなんです。フィジカルアセスメントしながら、すぐ摘便するのではなく、まずマッサージをしたり、食事を改善したりといった方法を学びました。下剤の使用に関しても、便を無理やり下剤で出すのではなく、いいタイミングで下剤を使ったりとか。たとえ一週間、便が出ていなくても、一週間後に気持ちよく出れば、それは便秘ではありません。そのようにして、利用者さんの排便周期を探り、その人にあった対応方法を見つけていくことはおもしろく、訪問看護にも役立っています。

 —利用者ご自身の排便のタイミングが大事なんですね。

病棟では「火曜日と金曜日は便出し日だから出します」のように、「便出し日」があることもありますが、そういう日があるのがおかしいなと、ずっと思っていました。そこで主体性を患者さんに戻して、無理やり出すのではなく、いいタイミングで出してあげましょうという試みが、興味深いなと感じましたね。

ちゃんと直腸におりてきてうんちが出るという感覚、昔の和式トイレがいいらしいんですが、そうすると直腸がまっすぐになって、いいみたいなんです。でもずっと便秘の方は、直腸に大きな塊がずっと残っていて、直腸が広くなってしまうので、うんちが来ても便意を感じなくなってしまうんですよね。そこで、ちゃんと便意を感じさせてあげるように支援しています。

「病院ではなく、自宅で最期を送りたい」。そのように願う方の支援がしたくて、事務所を設立。

 事務所の紹介をお願いします。

13年前に、自宅の四畳半から事務所を立ち上げて、今は看護師が10人います。ほかに、リハビリセラピストが3人、業務サポートをしてくれるスタッフが2人います。

「病院ではなく、自宅で最期を送りたい」。そのように願う方の支援がしたくて、事務所を立ち上げました。その想いは今も変わりません。展開エリアは、守山区、千種区、名東区、東区、北区、春日井市、尾張旭市の範囲です。

 事務所の強みは何ですか?

「お看取り」の経験と実績です。お看取りという最期の段階のときに、チームの仲間に入れていただけることを、とてもありがたく感じています。

 年間どれくらいお看取りをされているのですか?

多いと思います。お看取りのペースが、2日に1回の時もありました。最近はやや少なくなってきましたが、それでも月に10人ぐらいの方のお看取りをすることもあります。

 — 会社を立ち上げたきっかけを教えてください。

会社を立ち上げる前は、15年ほどご夫妻でやってらっしゃる、愛知県瀬戸市の診療所に勤めていました。在宅医療もやっている先生だったんですが、そこでケアマネージャーの資格を取らせていただいたり、訪問看護の立ち上げから一緒にさせてもらったりと、ぶつかることもありましたが、本当にお世話になりました。

そんなとき、東北の震災がありました。それで思うところがあり、先生に独立をお願いし、地元である守山で事務所を立ち上げることにしました。立ち上げる時、近所の先生のもとで軌道に乗るまで少し働かせてもらい、守山の人や地域について学ばせてもらったおかげで、今があります。

瀬戸にいた頃と立場が変わり、自分が経営者になってみると、いろいろご苦労があったのだろうなと、瀬戸の先生方の気持ちがよくわかるようになりました。今でも、瀬戸の先生方を懐かしく思うことがありますね。

「こんなふうに最期を看取れて幸せだわ」と、家族も看護師も感じた神秘的な「お看取り」。

 今までで一番印象に残っている利用者さんのことを教えてください。

奥さんと二人暮らしをしていた70歳代の男性で、すい臓癌の末期の方がいらっしゃいました。ただ、その方はご飯も食べられるし、台所まで自分で移動もできる状態でした。ある日、その方が奥さんに「訪問看護師さんを呼んでくれ」といきなり言ったので、奥さんは「何も用事がないのに、なんで呼ぶの?」と聞いたそうですが、それでも「呼んでくれ」と。それで私のところに奥さんから「ごめんね。忙しいかもしれないけど来て」と連絡があり、車に乗って20分くらいでそのお宅に行ったんです。そしたら、すでに息を引き取られていて…。自分で呼んで、自分でお看取りをするという初めてのケースだったので、忘れられないですね。

ちょうど桜の咲く時期でした。奥様が洗いものをしたり、お茶碗を洗っていたり、隣で洗濯物たたんでいたりといった日常の中で、自分で訪問看護師を呼び、息を引き取られたんです。とても穏やかなお顔で、奥さんも「こんなふうに最期を看取れて幸せだわ」とおっしゃっていました。私も同じ思いで、そのお看取りは本当に神秘的な、すばらしい体験でした。

看護師は、入浴介助やおむつ交換などに満足感を抱きがちですが、利用者さんは、話を聞いてもらうことのほうが嬉しく、満足度が高いというデータがあります。看護の原点ですよね。この男性の場合も、手を握ってお話を聞くということしかしていませんでしたが、こういうことが大事なんだなと、思っています。

困ったことが起きても、必ずいい方法があるはず! 患者さんやご家族、スタッフとともに考える。

 — 看護を提供する上で大切にしていることはなんですか?

自分がされて嫌なことは、絶対にしないということを大切にしています。これは看護師になってから、ずっと思っていることです。声かけもそうですし、おむつ交換のときもそうです。たとえばおむつ交換では、交換する人よりもされる人のほうがつらいと思いますし、お尻も一番デリケートのところを、ぎゅって拭かれたりすると痛いので、そういうことを絶対しないとの思いを、大事にしています。

 — 看護で困ったことが起きた時、どのように対処していますか?

「必ずいい方法があるはず」と、思うようにしていますね。その方法は、自分ひとりで見つけ出すのは難しいので、スタッフに相談したり、患者さんやご家族と考えたりしています。

患者さんの中には、どうしても埋められない苦しさというものが存在しています。その苦痛は、自身の置かれている現実と、「こうしてほしい」という理想の間にあるものだと思います。この苦痛を埋められるのは、医療ではなく、家族の絆や愛情です。ですから私も患者さんに愛情を持って接し、抱えている苦しみを教えてもらうとともに、「必ずいい方法があるはず」と、苦しみを和らげる方法もともに考えてもらいながら、看護を行っています。

 — 自身のモチベーションを保つために、していることはありますか?

人間ですので、やはり疲れたり、優しくなれなかったりする時はどうしてもあります。そのような時は、学会や研究会に行くようにしています。いい看護をしている看護師さんや、いい医療をしているお医者さんの発表を聞くと、「あっ、この方たちも、がんばってらっしゃるんだな」と勇気をもらって、自身も次の日からまた、がんばれるようになりますね。

あと、ある場所から300キロぐらい物理的に離れると、ストレスが解消されるらしいので、車に乗って遠くで開かれている学会に参加して、おいしいものを食べて帰ってくることもありますね。

 —星野さんにとって訪問看護とは?

大好きなものです。生まれ変わっても、もう1回、訪問看護師さんになりたいぐらい大好きですね。

今回お話を聞いた方について

れんげ訪問看護ステーション

管理者 星野智穂弥

2003年より訪問看護管理者として勤務。
2011年れんげ訪問看護ステーション設立。
2017年訪問看護認定看護師免許取得。
2020年pooマスター取得。
2022年7月事務所の火事を経験し2023年3月再建する。
終末期の方をご自宅で最期まで尊厳を守りながらお支えできればと勤務しています。

星野さんが働く事業所はこちら

事業所名れんげ訪問看護ステーション
サービス種別訪問看護
住所〒463-0046 愛知県名古屋市守山区苗代2丁目5番16号
お問い合わせ052-792-7752
ウェブサイトhttp://www.renge-houmon.com/