在宅医療介護の現場で働くひとたちの想いを伝えるインタビューメディア「メディケアワークス」。今回は、千種区にある「みんなのかかりつけ訪問看護ステーション千種店」野部晃代さんにインタビューしました。
訪問看護師の役割は「心の伴走者」だと考える野部さん。
その言葉の背後には、ご利用者様とご家族様の真の願いを見つけ、生きがいをデザインするための独特の取り組みがありました。
重要なのは、利用者様の過去から未来に至るまでの全体像を把握し、心に寄り添いながら理解を深めること。
野部さんが訪問看護の現場で、それを具体的にどう実践しているのか。
ぜひご覧ください。
「ご利用者様の生きる喜びを大切にする」という会社理念に共感し、入職を決断。
— 自己紹介をお願いします。
「みんなのかかりつけ訪問看護ステーション千種店」の管理者、野部と申します。新卒から4年間病院で働いた後、海外留学を2年間経て、帰国してからは訪問看護師として働いております。訪問看護師としては5年目になります。
— 事業所の紹介をお願いします。
千種店は今4年目になり、私は2023年6月に管理者として任用されました。エリアは、千種区と東区を対象に訪問させていただいています。千種店の強みは、リハビリに対しても特化していることです。難病から小児まで訪問し、看護師との連携もすごく大切にしているので、訪問看護のリハビリ依頼も時々あります。その際はセラピストにも、ケアプランを一緒に作ってもらったり相談にのってもらったりして、ケア内容の構築・修正をしています。看護師は私を含めて5人、セラピストは3人います。訪問看護歴が1年目のスタッフもいますが、看護歴の長いスタッフもいますし、全国27店舗の先輩看護師に、事業所を越えて相談できるシステムもあるので、看護歴の短いスタッフでも、不安なく訪問できる教育体制は整っています。
— 野部さんが、看護に興味を持ったきっかけを教えてください。
祖父が静岡の山のてっぺんに住んでいるような、少し過疎化しているところに住んでいました。胃がんで、最期は自宅で過ごすという希望があったのですが、時代的にまだ訪問医療しか介入できない、それも月一回とかだったので、兄が祖父の家で1カ月ほど学校を休んで、バイタルや介護をしたこともありました。当時、私は中学生だったのであまり関わりはなく、祖父も家族に見守られながら亡くなることができて良かったんですが、その時、将来的に人が自分の好きな場所で最期を過ごせるように、サポートする仕事に就きたいなと思い、看護師を選びました。
— 入職したきっかけを教えてください。
新卒で働いた病院の中にも訪問看護があり、そこで学びも得たのですが、本格的に訪問看護に入る前に、一度世界を見ていろいろな価値観に接したいと思い、イギリスに行きました。海外の方が、訪問看護が進んでいるという話もあって、ナーシングホームで学んだり、ビジティングナースとして学んだりできたらとの想いもありました。帰国後、訪問看護で自分のやりたい看護をしようと考え、3年ぐらい働き、そこでもいい経験をさせてもらったのですが、「みんなのかかりつけ訪問看護ステーション」のホームページで会社理念を見た時、「すごい。こんな素敵な会社があるんだ」と感動し、それが入職のきっかけになりました。とくに好きな理念の箇所が「ご利用者様の生きる喜びを大切にする」というところです。「病気を抱えているけど旅行に行きたい」「好きなものを最期まで食べたい」「大切な人と最期まで一緒にいたい」など、利用者様の想いに寄り添える場所で働きたいなと思っていたのですが、ホームページを見たら自身の考えていたことが全部書いてあったので、「ここに入ればきっと自分も成長できるし、同じ気持ちを持ったスタッフとケアを提供できる」と感じました。
— ほかにも魅力を感じた点はありましたか?
「社内マネジメント大学(DCMU)」のような、訪問看護師としても成長できるし、自分のスキルアップというところでも学べる制度があるというのを見たので、そこも入職を決めたきっかけのひとつです。
「聞き書き」を通して、ご本人様がご自身の過去を振り返り、自分の心に自分で気付くよう関わる。
— 今までで一番印象に残っている利用者さんについて教えてください。
どの利用者様も印象深い方たちばかりですが、自分の行動力の源になっていると思うのは、数年前に亡くなられたがん末期のご利用者様です。意見をしっかり伝えてくださる方で、最後までやれることは全部したいというご希望があったので、そこに向けて、ACPもしながら関わりを始めました。そのご利用者様からお願いされたのが、どう最期を迎えたいかを、ご家族様とも話してほしいというものでした。ご本人様にACPを進めていく中で、「私の死が家族をもう一度つなげられたら、もう一度みんなが一緒になれたら」という想いをお話してくださったんですね。その後、ACPをご家族様にも少しずつ進めていく中で、ご家族の存在が、ご利用者様にとってはすごく大切だということを、ご家族も再認識してくれるようになりました。もともと、自宅でお亡くなりになるのか、病院に行くのかも決まっていない状況で帰っていたのですが、最終的にはご自宅で、ご家族に見守られながらお亡くなりになりました。
— そのご利用者様とのつながりを感じられてエピソードを教えてください。
四季折々の変化を大切にされている方だったのですが、徐々に寝たきりになっていく中で、花が見られないことに対する悲しさがつのっているようでした。それを自分たちが支えられるように、具現化して伝えたいなと思って、花言葉と花の写真を持って、毎日訪問させてもらっていました。その結果、意識が朦朧としている中でも、「今日は?」と花言葉を待ち続けてくれたというところに、利用者様とのつながりを感じることができました。「あなたとの出会いで私は本当に救われた」と最後に言ってくださった言葉や、ご家族様との関係を最後まであきらめないこととか、私自身も自分を強く持つということの大切さを学ばせてもらったので、すごく印象に残っています。
そのご利用者様は、最期を家族に看取って欲しいと思っていたけど、ある程度距離を置かれてしまっていたんです。でも、ご家族の歴史をひも解いていくような形で話してもらうと、気付いてもらえることもあるんですよね。ご利用者様・ご家族様に、本当の気持ちに気付いてもらうそのような関わりができたからこそ、最期の看取りをご家族様みんなで迎えられたのかなって思っています。
— ご利用者様の過去や歴史をひも解いていく関わりにおいて、気を付けていたことはありますか?
ご本人様の歴史とか、ご家族様の触れにくいところに入り込むのは、すごく難しいことです。ですので、入り込むというよりは、ちょっとつんつんしてあげるという感じで、自分から話せるようにうながしていきます。「みんなのかかりつけ訪問看護ステーション」では、「聞き書き」と言っていますが、私たちが問いかける言葉を残さずに、ご本人様がお話した内容だけをどんどん書いていくというやり方で行っています。全部質問で聞くのではなく、質問した内容についてふくらみを持たせて、どんどん深掘りしていくという感じです。深掘りしていくと、ご本人様が自分の過去を振り返ることができ、本心に気付けることがあるんです。
— 「聞き書き」は、具体的にどのように行うのですか?
オウム返しとか、あえて何も言わず沈黙でご本人様の言葉を待つとかですね。こちらから全部投げ入れて、「こうした方がいいああした方がいい」ではなく、ご本人やご家族が、自分の心に自分で気付くように関わるといった形です。このやり方も、「みんなのかかりつけ訪問看護ステーション」に入って、学ばせてもらったことの一部です。
— 「聞き書き」は一般的な看護教育の中でも学ぶのですか?
看護学生の時は、コミュニケーションスキルについては学びますが、聞き書き自体は、教科書などに載っていません。逆に「みんなのかかりつけ訪問看護ステーション」で取り組んでいる「聞き書き」を、大学や学校の方に紹介しているスタッフはいますね。
大切なのは「ご利用者様の希望に寄り添うこと」。利用者様がその人らしく暮らせるように、伴走するのが私たちの役目。
— 看護を提供するうえで大切にしていることは何ですか?
ご利用者様の希望に寄り添うことです。私たち看護師は、病気の不安を取り除く専門性がとても大事になりますが、それに加えて、ご利用者様の生きがいをデザインする力というところも、会社としてもとても大切にしています。専門的な部分の助言はもちろんしていきますが、生きがいや希望はご利用者様・ご家族様が決められるように、寄り添っていくということです。前にあまり出過ぎないことは、とても大切にしていて、でも、だからこそ「希望って何だろう」と思った時に、今現在を見るだけではなくて、過去から学ばせてもらいながら、「ご利用者様は何を大切にしているか」「ご利用者様はどうありたいか」などを、知っていくことも心掛けています。
— 過去をひも解いていくことを大切にするようになった経緯やエピソードはありますか?
ご利用者様に「何を大切にしているか」を唐突に聞いても、出てくる答えが本当の気持ちかどうかはわかりません。その場で「これが好き。あれが好き。」と言われて、それを叶えることはできるんですが、それはひとつの手段で、ご利用者様が本当に大切にしていることを、ご利用者様にも気付いてもらう、それを私たちが一緒に叶えるためには、やはり歴史とか今までの経験などが、大切になるかなと思っています。
母親との関係がうまくいっていない方に、例えばカレーの話を聞いたら、「お母さんが作ってくれたカレーが一番好きだった」と、返ってくるかもしれません。そのカレーをちょっとした手段として、お母さんのことを考えるきっかけを作ることで、「昔はお母さんがこうだったんだけど、今はこうで、実はこういうことがあったから、今は関係性が悪くなっちゃったんだよね。」のような言葉を引き出せれば、お母さんとご自身の関係性を振り返ってもらうきっかけになります。そして関係性を振り返ることが、「では、お母さんと今どうしたいのか。」のように、関係性を良くするための一個のきっかけになる気がしているので、そういうところを大切にしています。
— 自分にとって訪問看護とは?
「心の伴走者」だと思っています。私たち「みんなのかかりつけ訪問看護ステーション」のビジョンに、「デザインされたケアで。人生の全ての段階で。全ての人々が豊かに暮らせる社会を実現する。」というものがあります。人生を走っているご利用者様やご家族様が、その人らしく暮らすためのお手伝いとして一緒に伴走するのが、私たちの役目なのかなと感じています。こんなにも人の歴史について掘り下げたり、考えたりするお仕事は少ないと思います。もちろん苦しくなったり、逃げ出したくなったりすることもありますが、毎日毎日成長を感じさせてもらえますし、感謝と笑顔が見られるこの仕事は、すごく素敵なものです。利用者様の心に寄り添える、すごくいい仕事だなと思います。