在宅医療介護の現場で働くひとたちの想いを伝えるインタビューメディア「メディケアワークス」。今回は、中区にある「みんなのかかりつけ訪問看護ステーション金山」吉田雄太さんにインタビューしました。
大学院で「やりがいのある職場環境」を研究していた吉田さん。
みんなのかかりつけ訪問看護ステーションは、研究の末に導き出した理想の職場像に近かったそうです。
吉田さんは、訪問看護を通じて、「安心」と「心を動く瞬間」を作りたいとおっしゃっていますが、そのベースには、充実した職場環境があるのだと感じました。
吉田さんがどんな思いを持って日々の看護に取り組んでいるのか。ぜひその思いをご覧ください。
「最高のケアをするためには、ケアを提供する私たち自身がハッピーでなければならない」が会社の理念。
—自己紹介をお願いします。
みんなのかかりつけ訪問看護ステーション金山店の管理者をしています、看護師の吉田と申します。
—事業所の紹介をお願いします。
金山店は2022年10月にオープンしました。担当エリアは、中区、熱田区です。中区の松原にある名古屋事業所のサテライトという立ち位置で、その2つの区を担当しています。看護師は自分も含めて5名、セラピストが2名の計7名で運営しています。金山店は中区の2店舗目なので、名古屋市中区を2店舗で訪問させていただいている形になります。中区という人数が多い区に対し、2店舗で訪問することで、移動効率が高まります。より多くの方々に、私たちのケアを届けられるようになりました。
—事業所の強みは何ですか?
スタッフの成長意欲や知的好奇心の高さは、すごく強みかなと思っています。平均年齢はほかの事業所さんに比べて若く、まだできたての店舗ですが、いいケアを届けていけるようなチーム作りだったり、コミュニケーションだったりを、これからしっかりやっていきたいねと、みんなでも話しています。
—管理者として、運営について何か意識していることはありますか?
訪問は一人で行うことが多いので、現場で困ることや悩んでしまうことが、たくさんあります。病院だとすぐにナースステーションに戻って、相談できる環境があると思いますが、在宅ではそれが難しいので、スムーズにコミュニケーションが取れるようなチームの雰囲気作りは意識しています。困った時にすぐ、現地から誰かに電話できる体制を整えたり、「相談してね」という声かけだったりは、普段から意識しています。
—入職したきっかけについて教えてください。
代表の藤野を学会で見たことが、会社を知ったきっかけです。学生時代に参加した学会で、講演者として代表が出ていました。ただ当時は、在宅にあまり関心はありませんでした。その後、病院で働くようになったのですが、自分がやりたかったケアや働き方に悩んでしまい、外の空気を吸おうと、うちの会社に見学に行き、話を聞いてみることにしました。そこで、会社の「Better Work(ベターワーク)」という試み、つまり「最高のケアをするために、私たち自身がハッピーでなければならない」という理念に共感しました。
もともと自分は大学院で、看護研究をやっていました。そこでの研究テーマが、「やりがいのある職場環境というのは、看護師にとってはどのようなものなのか」だったので、今までやってきた研究テーマと、デザインケアの「ケアを提供する側の人たちがハッピーじゃないといけない」というところがすごくマッチしました。将来的な自分の働き方もイメージでき、この会社に入社しました。
訪問看護は病院より自由が利く分、スキルも試される。たいへんな面もあるが、そこが看護師としてのやりがいにつながる。
—病院では、どのくらい働いていたのですか?
実際に病院で働いていた期間は、半年間だけです。大学院含めて、学生を計6年間やった後に病院で半年働いて、訪問看護の道にきました。今、看護師自体は5年目で、在宅のほうが今はもうずっと長いです。
—病院から訪問看護にきた時、看護師としてのスキル面などで苦労はありましたか?
看護技術でいうと、半年間で習得できたものはなかったかなと思うので、そこは1年2年かけて、少しずつやってきたという感じです。
—大学院で「職場環境」について研究をしていたということですが、思い描いていた職場像と、実際の現場とのギャップはありましたか?
はい。自分の中での研究をして、「こういうところが理想の職場なんだな」という理想像があったために、実際にリアルで働いてみた時のギャップが、大きかったんだと思います。
—デザインケアでは、自分が思い描いていた像に近い働き方ができると感じ、入社されたのですか?
そうですね。管理者との関係性だったり、看護師の自律性だったりという部分に、魅力を感じました。
病院でも、看護師の専門性を発揮しながら働く場面はあるとは思いますが、なかなかそれを1年目の僕が感じ取ることは難しいものがあったんですね。一方、かかりつけだと、経験年数も関係なく、フラットに意見を出し合う組織風土みたいなところは、見学の時に見て感じ取れたので、自分が「1年目だから」という目で見られるのではなく、一個人の意見として取り入れてもらえるというところは、自分の専門性の発揮できそうな部分だなと感じました。
また、自律性でいうと、実際に自分が訪問に行った時にこういうアセスメントして、こういうことをしましたという部分は、病院よりも自由が利くかなと。もちろんスキルも試されてはきますが、そこが看護師のやりがいになってくるというところは、病院との違いかなと思います。
「せっかく帰ってきたんだから、何かやろうよ」。在宅だからこそできるケアとは。
—今までで一番印象に残っている利用者さんのことを教えてください。
中川区にある高畑の事業所で働いていたときに、二十歳の利用者様とかかわったことが一番印象に残っています。その方は、10歳から脳腫瘍で治療を続けていましたが、二十歳になってもうできる治療がなくなってきたというところで、在宅に帰ってきて、僕たちが毎日訪問しながら、在宅療養を支えるという形で介入させていただきました。
年末になって、「毎年、クリスマスパーティーとかやってたの?」という話をした時に、「いや、やったことがない。みんなでワイワイしたこともないし、楽しみなことじゃない」ということを本人がおっしゃったんですね。そこで、高畑のチーム全員で話し合い、「せっかく家にいるんだし、楽しいことしたいよね」ということになりなりました。「もしかしたら最後の思い出になるかもしれないけれども、家族にとっても本人にとっても、いい思い出作りができたらいいね」というところでプロジェクトが動き出し、音楽療法士をされているほかの利用者のお母さんにもご協力いただき、クリスマスパーティーを開きました。
当日は、本人の家にヘルパーさんや僕たちスタッフが10人以上集まって、クリスマスの曲を生演奏したり、ジュースで乾杯したりして、みんなでワイワイ過ごしました。その方は1カ月後に入院して亡くなってしまったのですが、お母さんが「あんなに笑った姿は帰ってきてから見たことがなかった」と、ブリーフケアの時におっしゃっていたんですね。誰かの人生にとって、心に残るケアができたというところは良かったなと思うし、在宅ならではの「せっかく帰ってきたんだから、何かやろうよ」というケアができたのかなと思っています。
—利用者さんの潜在的な要望をくみ取り、チームで自発的に企画をされたのですか?
僕たちの中で壁に思っていたのが、ご本人自身が、何をしたいのかがわかっていなかったことです。治療生活を10年間送ってきて、在宅でもベッド上の生活を過ごしていく中で、明日に希望が見いだせていない状況だなというところは、みんなでの話し合いの中で出ていたんですね。
「僕たちが当たり前のように楽しみにしているイベントごとでさえ、楽しみになっていない人生ってどうなんだろう」というところはありました。このクリスマスパーティーがきっかけになって、「また来年もこういうことやりたいね」と、明日からの希望を持てるものにしたいということは、事前に話し合って決めていました。
利用者様の「安心」と「心を動く瞬間」を作ることが、今、僕の大切にしている看護観です。
—看護を提供する上で大切にしていることはなんですか?
まずは、「安心して在宅で過ごしてもらえるようにする」ことです。せっかく在宅に帰ってきても、「訪問看護」が入っていないと、「病院の方が安心だな」となり、病院に戻ってしまう方が多いんですよね。でも、僕たちが入って、何か苦痛が生じた時にすぐに対応できれば、「在宅でもやれることがあるんだ」と安心し、在宅の選択をしてもらえるようになると思うんです。僕たちが入っていく中で、まずやるべきことは、安心してもらえるような介入ができるようになることだと思います。まずそれがあって、その次に「心が動く瞬間」を作り出したいというのがあります。毎回毎回、クリスマスパーティーのようなことができるわけではありませんが、「今日、こういうことをできて良かったね」「天気が晴れたね」など、なんでもいいと思うんです。一緒にいる空間の中で、少しでも心が動く瞬間を作り出せたら、「家にいて良かったな」と思ってくれるはずですし、それの積み重ねが、「明日からまた頑張ろう」と思える、希望になっていくと思うんです。ですからこの2つ、「安心」と「心を動く瞬間」を作ることが、今、僕の大切にしている看護観になります。
僕たちのケアは、「生きる力」「生きる希望」のケアです。「生きる力」のケアは、安心感を届けること。つまり、その人が病気を自分でコントロールできるようにし、生きる力を引き出すようなケアのことです。
「生きる希望」のケアは、その人の今まで生きてきた人生や価値観を大切にしながらケアし、「明日からも頑張ろう」という気持ちを引き出すケアのことです。
この「生きる力」「生きる希望」のケアというのは、会社全体で合い言葉として使っている言葉です。みんなのかかりつけ訪問看護ステーションが、利用者様に入る意味は、この2つのケアが提供できることだと、意識してやっています。
—自分にとって訪問看護とは?
「やりたい看護が表現できる場所」です。病院は、検査・治療・手術後の観察など、本当に忙しいんですよね。そのような中で、もともと自分がやりたかった「看護」というものが、なかなかできずにもやもやしている人は、たくさんいるはずです。
訪問看護ももちろん忙しいは忙しいですが、うちの会社が大切にしている理念だったり、組織風土だったりを踏まえると、ここには自分がやりたい看護を表現できる場があるんです。実際、僕も4年前、やりがいのある職場環境を作りたいと思って、岡山県から愛知県に飛び出し、ここに転職したのですが、実際に頑張っていく中で、こうやって金山店の管理者として任用してもらい、今、やりたいことができているなと感じています。ですから、自分のやりたい看護や働き方が表現できる場所というのが、訪問看護だと思います。
—名古屋エリア以外から転職される方は多いのですか?
多いですね。代表の藤野が全国の学会に飛び回っているので。僕は岡山県にいたときに、隣の神戸の学会で見たのがきっかけでした。
—転居を伴ってでも、働きたいと思える魅了がある職場だということですね。
ここにはやりたい看護のできる環境があるので、「看護師をやって良かったな」と、自分の人生を承認してあげられるような職場になっているんだろうなと思います。スタッフひとりひとりが、「自分たちはいいケアをやっているんだ」「最高のケアをやっているんだ」というプライドを持てることは、すごく大切なことだと思います。そういう仲間が集まると、人間関係がスムーズになりますし、同じ目標に向かってみんなでやっているんだという共通の意識は、職務満足度の高まりにつながっていくと感じています。
看護師は、いろいろな想いを抱いて、日々働いています。そのような中で、やりたい看護ができず、くすぶっている看護師さんもたくさんいると思います。うちの会社は、日本の隅々まで、最高のケアを届けることを目標にしています。全国各地に店舗もできてきているので、くすぶっている人がいれば、ぜひぜひうちの会社に、一回でも見学に来てもらえたらなと思います。