在宅医療介護の現場で働くひとたちの想いを伝えるインタビューメディア「メディケアワークス」。今回は、中川区にある「訪問看護ステーションエルージュ」管理者の佐藤志津代さん、主任の大野麻里さんにインタビューしました。
お話の中で、事業所で一緒に働くスタッフのことを「仲間」と表現をされていたのが印象的でした。仲間という言葉は、チームメンバーが、価値観を共にし、信頼しあっているからこそ出てくるものです。エルージュさんは結束力が強く、チームワークのよい事業所なのだと感じました。
お二人がどんな思いを持って日々の看護に取り組んでいるのか。ぜひ佐藤さん、大野さんの思いをご覧ください。
総合的にどんな利用者さまにも対応できることが強み。
ー自己紹介をお願いします。
訪問看護ステーションエルージュ、管理者の佐藤志津代です。主任の大野麻里です。よろしくお願いします。
—事業所の紹介をお願いします。
佐藤さん:事業所は2019年1月1日に立ち上げました。2022年12月(取材時)で4年を迎えます。看護師、理学療法士、作業療法士、事務、計9名在籍しています。
2025年には65歳以上の高齢者、5人に1人の割合で認知症が急増すると言われています。その中で当ステーションは私を含め3名の看護師が認知症ケア専門士の資格を持ち、認知症の利用者さま、およびご家族に最適なサポートを提供できる強みを持っています。
精神疾患、難病を患う方にも訪問看護を提供して、エリアとしては、中川区、中村区、港区がメインで、瑞穂区、北区、あま市や蟹江町にも訪問しています。
― 事業所の強みはなんですか?
佐藤さん:どのような方にも臨機応変に対応できるスキルを身に着けた看護師がいることが強みだと感じています。
また、高いチーム力も強みです。訪問から帰ってきた後には、しっかりと情報共有をしています。「1人の利用者さまをチームで支える」ということを、看護師・セラピスト・事務員の職種に関わらず、スタッフ全員が強く意識していますね。
同じ仲間とステーションを立ち上げ、大切にし続けてきたことを理念にした。
— 事業所を立ち上げたきっかけを教えてください。
佐藤さん:立ち上げのきっかけは、大切にしている看護観が同じ仲間と訪問看護を続けたいと思ったからです。
メンバー全員で、ひとりひとり大切にしていることを書き出し、繋ぎ合わせてエルージュの理念にしました。
— 理念の内容を教えて下さい。
佐藤さん:「エルージュ」という事業所名は、エールが翼、アンジュが天使という意味のフランス語をつなぎ合わせた造語です。社長が考案しました。
『夢と希望という2枚の「翼」でお互いの幸せを広げ、社会から必要とされること』
これが当事業所のミッションです。このミッションを実現するような事業所であり続けたいと思っています。
また仕事と子育て・家庭の両立が当たり前にできる会社にしたいと考えています。これを実現するためには当事業所が掲げている指針(クレド)が重要です。
指針の中には、『互いが感謝の気持ちを忘れない』『全員が平等でフラットな立場を築く』というものがあります。仕事と子育てや家庭を両立させるためには、感謝の気持ちや、全員が平等で何でも伝えられるフラットな関係性が必要であると考えて、指針に盛り込みました。
理念はすごく大切にしています。
— 訪問看護に興味を持ったきっかけは何ですか?
大野さん:病院では患者さんとのコミュニケーションが思うように取れませんでした。後になって聞きたかったこと、伝えたかったことが思い浮かんでは、日々の忙しさに流されていた毎日でした。そこで、私が目指す看護とライフスタイルにマッチしたのが訪問看護でした。
看護師になって20年以上経った今、看護師になって良かった。仕事が楽しい。やり甲斐ってこれだと。感じています。
ターミナルの利用者さまと見に行った桜。利用者さまとご家族の両方を丁寧な看護で支える。
— 今までで一番印象に残っている利用者さんのことを教えてください。
佐藤さん:自宅でお看取りの、肺がん末期の利用者さまです。
せん妄症状が強く、日々変動が激しい状況にご本人もご家族も苦しまれていました。
しかし体調が比較的良く、晴れた日に、桜が満開の季節だったので、利用者さまが大好きだった日本酒を持ってご家族、看護師、6人で近くの桜を見に行き、写真を撮りました。その数日後に息をひき取られました。
利用者さま、ご家族のニーズにできるだけお応えし寄り添える、訪問看護ならではの醍醐味であったと感じています。今でも毎年その桜を見るたびに感慨深くなります。
— 医療機関との連携はどうでしたか?
佐藤さん:先程の利用者さまの主治医が木の香往診クリニックの安江先生でした。症状が変わるたびにクリニックへ連絡をしていたのですが、電話に出られる方が看護師さんのため、連携がとてもスムーズでした。スピード感を持って毎回対応していただいてました。また、往診に同席するたびにあたたかい医療を提供される先生と感じました。その中で、在宅での緩和医療についてたくさん学ぶことができました。
大野さん:私も同じエピソードになるのですが、夜間せん妄状態が強く、ご家族がとても不安を抱いていました。しかし、夜間駆けつけていただいた先生から納得のいく説明を受け、薬剤の変更や血液検査までしていただき、とてもご家族が安心し、感謝されていたのが印象に残っています。
— その利用者さまに携わったことで看護観の変化はありましたか?
大野さん:在宅看護は利用者さまだけでなく、ご家族も支えていかなければならないということを強く感じるようになりました。訪問した短い時間の中で、利用者さまだけでなく、ご家族の声も拾い上げ、親切丁寧にニーズに応えていきたいと日々思っています。「親切丁寧」は私のモットーなんです。
— 在宅では病院よりもご家族との関わりが多いと思いますが、何か意識していることはありますか?
佐藤さん:ご家族の想いと利用者さまの想いが違うこともあったり、医療者として良いと思うことを提案しても受け入れてもらえなかったり、時間はかかることもありますが、まずは信頼関係を築くことからはじめ、ご本人、ご家族の話をしっかり聞きながら、隠されたSOSをキャッチできるよう意識しています。この作業を一つ一つ丁寧にやるようにしていますね。
「丁寧な看護」はエルージュの強みだと思っています。
仲間と共に利用者さま一人ひとりに寄り添った看護を提供する。
— 看護を提供する上で、大切にしていることはなんですか?
大野さん:病院ではスタッフや医師にその場で相談ができますが、在宅看護は一人で判断しないといけない場合が多く、迷う時や疑問に感じることはステーションに持ち帰り、必ず相談するようにしています。
エルージュはなんでも相談し合える環境と仲間がいます。その仲間と一緒に、これからも自分のやりたい看護を続けていけたらいいなと思っています。
佐藤さん:利用者さま一人ひとりにしっかり寄り添うことを大切にしています。
私たちは、利用者さまの生活の場(ご自宅)に訪問するので、「どのような事を大切にしてみえるのか」「どのような人生を送られてきたのか。」を感じる事ができます。そこで利用者様のニーズを多面的に捉え、その人その人の思いを尊重することを大切にしています。
訪問看護師は天職。エルージュで働ける幸せを感じながら看護を提供していきたい。
— お二人にとって訪問看護とはなんですか?
佐藤さん:訪問看護師という職業は私にとって“天職“だと思っています。
たくさん悩むこともあります。良い方向に導きたいために提案しても、ご理解いただけない時や、ただただ寄り添い変化なく、時間だけが過ぎ、戸惑うことなど、たくさんあります。
しかし焦らず利用者さまの声に耳を傾け、向かい合うということを大事にしています。
大野さん:病院と違って、在宅ではルールに縛られ過ぎず、利用者さんの意志を最大限に尊重し、その人に合わせてしっかりサポートできます。責任は重い分、やり甲斐はとても感じられます。
個人的な意見ですが、訪問看護は基本的に1人の時間が多いので、ゆっくり考える時間が持て、リフレッシュできる時間でもあり、自分にはとても合った看護師としての働き方ができ、自分らしくいさせてくれます。これからも仲間を大切にメンタルも身体も支え合いながら、より良い看護を提供していきたいと思っています。