在宅医療介護の現場で働くひとたちの想いを伝えるインタビューメディア「メディケアワークス」。今回は、中村区にある「訪問看護ステーションAMO」管理者の吉田由貴(よしだゆき)さん、看護師の中井歩(なかいあゆみ)さんにインタビューしました。
お二人の話から出てきた「想像」という言葉。これは利用者さんがどのようなことを望んでいるかを常に想像しながら関わるということでした。看護などの対人援助の仕事では、寄り添いや思いやりということがよく言われますが、そこに相手が感じている苦しみや痛みを想像する力がなければ、独りよがりな支援になってしまう可能性もあります。そうならないように、努力されながら看護をされているのだとインタビューを通じて感じました。
お二人がどんな思いをもって日々の看護に取り組んでいるのか。ぜひ吉田さん、中井さんの思いをご覧ください。
訪問看護と訪問介護が連携しながら利用者さんを支えられることが強み。
ー自己紹介をお願いします。
訪問看護ステーションAMO、管理者の吉田由貴です。看護師の中井歩です。
—事業所の紹介をお願いします。
吉田さん:事業所の母体の会社は株式会社KEIといいます。5年程前に、名古屋市港区で訪問介護からスタートしました。2022年2月に名古屋市中村区に訪問介護の新しい事業所を出店しまして、その後、2022年4月に訪問看護ステーションAMOを中村区で立ち上げました。
訪問エリアとしては、港区、中川区、中村区、西区、北区。あま市や清須市にも訪問しています。
― 事業所の強みはなんですか?
吉田さん:事業所の強みとしては、訪問介護と訪問看護が連携して情報共有しながら、同じ利用者さんにケアを提供できることです。訪問看護だと時間が限られている場合も多いですが、訪問介護だと長いと2時間入ることもあります。そこで、私たちは看護師から介護士へ申し送りをして、介護士にもみてもらうような取り組みをしています。
うちの事業所は一人ひとりが熱意を持ってます。それこそ熱すぎるくらいです。利用者さんがご自宅で安心して長く過ごせるように、ということを常に頭に入れながらがんばっています。利用者さんファーストで、寄り添った看護を提供しています。
「その人その人で輝ける場所がある」という社長のモットーを実現した事業所。
— 事業所を立ち上げたきっかけを教えてください。
吉田さん:当社の社長はずっと介護をやっていますが、介護と看護の連携に課題を感じていました。介護と看護って近いようで遠いもので、事業所が違うとなかなか連携が取れない場面もあります。例えば、緊急時に訪問看護へ連絡したとしても、救急車呼んでくださいで終わってしまったりとか。介護と看護を一体で提供できれば、利用者さんの良い生活につながるのではないかと考えて、訪問看護ステーションを立ち上げました。
— 社長との出会いのきっかけは?
吉田さん:出会いのきっかけは私の母の介護です。実は、社長は私の母がお世話になっていた事業所のヘルパーさんだったんです。その事業所が閉業することになり、利用者さんが路頭に迷ってしまう状況になってしまいました。これはまずいということで、社長が一念発起して立ち上げたのが株式会社KEIなんです。社長がヘルパーだったときからずっとお世話になっていて、今でも母は社長に介護を受けています。
社長がヘルパーとして働いていたときから、利用者さんのことを思ってサービスを提供されていました。社長が会社を立ち上げ、従業員の話をしているときもスタッフのことを大事にしていることが伝わってきました。「こうやって上の方から大事にされて働きたいな」と思っていました。
かねがね、「もし看護師が必要になったら声掛けてください」って冗談ぽく言っていたんです。そうしたら看護をやろうと思うということで声をかけてもらいました。
うちの社長はすごく従業員のことを大切にする方なんです。
— 社長が従業員思いだと感じるエピソードはありますか?
吉田さん:社長のモットーが「その人、その人で輝ける場所がある」というものです。これは常々言っています。例えば、隣にいる中井に対しても子育てと仕事が両立できるように勤務調整してくれたりしてくれています。なるべくスタッフみんなに負担がないように配慮してくれています。
訪問介護のスタッフでも、今までひとつの仕事が長く続かなかった方も、当社の事業所では続いています。社長は諦めずに従業員に関わってくれますね。
はじめての自宅看取り。スピードとチームワークの重要性を実感。
— 今までで一番印象に残っている利用者さんのことを教えてください。
中井さん:私は前職で緩和ケア病棟で長く勤めていました。そこでは、終末期の患者さんが家に帰りたいという思いがあるのに、なかなか帰れないという状況がありました。医療者の立場からみると帰れるタイミングがあると思ったとしても、実際には帰れない。家に帰りたいのに病院で亡くなるという方をみてきました。
「そこに家があるのになぜ帰ることができないのだろう」「在宅の何に問題があって帰れないかを知りたい」と思ったことが在宅の訪問看護を志望した理由です。
先日、余命が残り短い難病の患者さんをご紹介いただき、期間としては1ヶ月もないくらいで短かったのですが、看させていただきました。在宅では、病院では当たり前にある吸引器や点滴がなかったり、医師も近くにいない、これがご家族が不安に感じる理由でもあるなと思いました。
在宅で安心して療養してもらうには多職種間の連携とスピードが非常に重要だと感じています。ケアマネさんや訪問診療の先生とスピード感を持って連携し、対応スピードを高めること。これが安心につながると思います。この方についても、スピード感ある連携が取れたことで、ご家族からも家で看取れてよかったと言ってもらえました。地域としての連携がすごく大切ですね。
吉田さん:事業所が今年の4月に立ち上げで、自宅でのお看取りを私たちもしたことがなかったんです。なので毎日手探り状態で。吸引器も何日後にしかきませんと言われてしまい、そこを何とかと言ったらケアマネさんが運んでくれました。医師とも連携をしながら進めましたが、まさにチームワークだなと。
自宅でお看取りができたことをご家族もすごく喜んでました。自信なさそうに「よかったかどうか分からないけど」と仰っていました。けれど、私たちからすると、家で最期を迎えたいと言っても現実的に難しい方もいらっしゃる中で、ご本人の希望通り、自宅で最期を迎えられたのはよかったと思っています。お家で亡くなる方がまだ少ない中で、お看取りをできた経験は非常に貴重でした。
— 看護師の視点から、病院医療と在宅医療の違いはどんなところですか?
中井さん:時間の進み方が違いますね。病院だとナースコールで呼ばれたら、最期の看取りのタイミングだったとしても行かなければなりません。一方で、在宅だとお家に行くのでその方に集中できます。また、病院だと感染対策の観点からご家族や親戚の方が、なかなか呼べないということもあったのですが、お家であれば制限なく呼ぶこともできました。
エンゼルケアも、お家にあるものを使って、体をきれいにしたり、お化粧をしたりすることができます。これも在宅ならではですね。今回お看取りをした方であれば、ご本人が手で編んだ服を着せられました。息子さんやお孫さんなど10名近くで体を洗いましたね。
このようなケアは病院だとなかなか難しいと思います。
吉田さん:病院だと同時に複数人の患者さんを看ないといけなかったので、「もっと話したいのに」と思っても呼ばれたら、行かねばなりません。患者さんがこの時間にこれをして欲しいと思っていたとしても、対応するのはなかなか難しい場合もあり、どうしても病棟の都合で動く必要がありました。一方、訪問看護であれば基本的には訪問の時間も決まっているので、一人の利用者さんとじっくり関われます。
ただ、病院では医師もいますし、何かあってもすぐにまわりに相談できました。在宅だとそれは難しい。医療資源も十分に揃ってない中での対応が求められるので、特に医療依存度が高い方へ対応するときには、もどかしさ、葛藤を感じることもあります。
中井さん:在宅では医療資源や器具がない中で支援していくことになります。医療資源がないことで「こんなんだったら病院にいたほうがよかった」とは絶対に言われたくないです。それを思われたら在宅に来た意味がないです。そう思われないような関わりをしていくと強く決意しています。
訪問看護とは、利用者さんがご自宅で安心して生活できるように支え、助けになるもの。
— お二人にとって訪問看護とは何でしょうか?
吉田さん:利用者さんのベースは自宅にあると思います。お一人お一人の利用者さんとじっくり関わりながら、ご自宅で日常生活が安心して送れるように支え、助けになれるものが訪問看護だと思います。
中井さん:制度などいろいろと難しいこともあります。ただ、そんなに難しいことではなくって、「ただ家に帰る」「家で過ごす」と思えたら、自宅でのお看取りもそんなに大きなことではないなと思います。
大切なのは想像力。利用者さんの感じている痛みや抱えている苦しみを理解しようと努力することが想像力につながる。
— 看護を提供する上で大切にしていることを教えてください。
中井さん:「想像力」を大切にしています。利用者さんに思いやりを持つ、寄り添うと言っても、そのベースには想像力が必要だと思うのです。想像していかないと、ずれた思いやりになってしまったり、こちら都合の思いやりになってしまう可能性があります。それは避けないといけない。
利用者さんが感じている痛みや抱えている苦しみは、その方自身が抱えているものなので、完全に理解することはできません。しかし、その痛みや苦しみを分かろうとする努力はいくらでもできます。想像力とはそういった努力から生まれるものだと思っています。
吉田さん:私も似ているのですが、自分本位にならないように気をつけています。病院にいた頃は、こちらの都合であれこれ言っていたとなと在宅看護をやるようになってから思うようになりました。
在宅ではお一人の方にたっぷり時間が取れます。お話をじっくり聞きながら、「こういう風にしてほしいのかな」「こういうことを言ってほしいのかな」「自分だったらどうして欲しいかな」「自分の家族だったらどうかな」などを、想像するようにしています。