在宅医療介護の現場で働くひとたちの想いを伝えるインタビューメディア「メディケアワークス」。今回は、西区にある「株式会社マザーズ」淺野優治さん杉本久仁彦さんにインタビューしました。
淺野さんと杉本さんが追求しているのは、「自分たちが提供したい看護」ではなく、「ご利用者さま個々のニーズに対応した看護」です。「ご利用者様が、自分らしい最期を迎えられるように、何ができるか?」という問いの答えを探し続け、日々、一人ひとりの利用者様に向けて心を込めて真摯に看護を提供されています。
さらに、お二人は、スタッフ一人ひとりが笑顔で仕事に専念できる環境づくりにも力を注いでいます。
「人生 楽しく 自分らしく」
―これはマザーズさんが掲げる法人理念です。
ご利用者さま、スタッフの皆様、すべての関わる方々それぞれが、「人生 楽しく 自分らしく」。
お二人の根本にはこの理念が流れているのだと感じました。
淺野さんと杉本さんが看護に対して抱く熱意と、その深い情熱をぜひご覧ください。
「地域の最後の砦」になるために、スタッフが一丸となって、利用者様に向き合う。
ー自己紹介をお願いします。
淺野さん:株式会社マザーズで看護グループのマネージャーをしている淺野と申します。よろしくお願いします。
杉本さん:同じく株式会社マザーズの管理者をしております杉本と申します。よろしくお願いします。
—会社の紹介をお願いします。
淺野さん:株式会社マザーズは、福祉事業を展開しています。主に住宅型の有料老人ホーム、精神障がい者の方の日中支援型のグループホーム、障がい者の方の就労支援として農業などをやっています。それ以外にも居宅事業があり、その中に訪問看護事業があります。訪問看護事業に関しては現在、中村区で「ナースステーションプラス」、西区で「訪問看護マザーズ」の2事業所を運営しています。
—「ナースステーションプラス」について教えてください。
淺野さん:「ナースステーションプラス」はもともと、マザーズが運営する住宅型の有料老人ホーム等に、施設訪問看護という形で展開していました。現状、中川区伏屋に、ナーシングホームの形にはなっていますが47床の住宅型有料老人ホームがあり、そこを1カ所と、中村区中川区に3か所ナーシングホームがありますので、そこに施設訪問看護師として派遣しています。それ以外にも、日中支援型のグループホーム「NEXUS岩塚」「NEXUS伏屋」「NEXUS池花」、また、「COMMUNUS池花」という障がい者の方が入られる住宅型の施設があるのですが、そちらにも訪問看護師を派遣しています。総勢だと、看護師とリハビリスタッフ合わせて40名強で運営しております。そのうちリハスタッフが、10名弱ですね。
—基本的には施設への訪問がメインですか?
淺野さん:はい、基本は施設になります。ただ昨年度から在宅訪問も始めまして、割合的にはまだ全体の訪問数の1割ぐらいですが、中村区・中川区・港区の辺りから徐々に増やしています。
—「訪問看護マザーズ」について教えてください。
杉本さん:「ナースステーションプラス」と同様、「施設訪問+在宅」をメインに、訪問看護として関わらせていただいています。割合としては、半分ずつぐらいですね。西区を中心に活動していて、看護師とリハビリスタッフの数は、合わせて17名程度です。
—事業所の強みは何ですか?
杉本さん:私が管理者になってからまだ日は浅いのですが、「地域の最後の砦になる」という、これまでの管理者がずっと受け継いできた思いが、看護ステーションにしっかり根付いている点は強みだと思います。利用者様のために何ができるかを第一に考えながら、しっかり活動できているステーションですので、そこを引き継いで、今も活動させていただいています。
—管理職になられて日が浅いということですが、どのようなステーションにしていきたいですか?
杉本さん:立場が変わったことで目線も変わり、「自分がどうしたいか」というよりも、「みんながどうしていきたいか」という方向で考えるようになりました。何がみんなの笑顔につながるのかをずっと考えていますが、それぞれにやりたい看護があると思うので、それをみんなでかなえていけるようにしていきたいですね。現在、スタッフが一丸となって、利用者様に向き合うことができていますが、そこをどんどん突き詰めるために、僕は支えていきたいです。訪問看護って、どうしても「一人」になりやすいんですよ。特性上、一人で訪問して、一人で看護して帰ってくる形になるんですが、そこをみんなでやれるような場所にできたらと思っています。
—チームとして一丸となる良さを、実感することはありますか?
杉本さん:ちょっとしたことを悩む時って、絶対あるんですよね。多分、何十年経験しても一生悩むんだろうなと思うんですけど、「どうしようかな…」って悩んだ時に相談できる場所って、すごく助かると思うんです。みんながそばにいれば、ちょっと悩んだ時でも相談できたり、悲しい時とかも優しく声をかけてくれたりとか、それがお互いにできるので、本当につらい時、支え合っていけるし、うれしい時は一緒に喜びあえるのが、いいかなと思っています。
また、自分以外の人から出てくるアイデアに、気付かされることも多いんですよね。「ああ、そんなアイデアは、自分だけでは出てこんかった」ということがあるので、それを取り入れたらもっといい看護ができるかもしれないと思えたり、できることがどんどん増えていくような感じになったりするんです。その分、大変なことも多いんですが、その2倍3倍いいこともあるので、そういうところがチーム一丸の良さかなと思います。
—管理者としての杉本さんを、淺野さんはどのようにご覧になっていますか?
淺野さん:今年の看護グループの目標に、「大切な人生に笑顔をプラスする訪問看護」というものがあります。これはご利用者様だけじゃなくて、働くスタッフの「大切な人生」にも、笑顔をプラスしたいという願いが込められています。今、杉本君は管理者としてとても大変だと思うのですが、利用者様やスタッフが笑顔になるような工夫を随所にしていて、本人も笑顔を欠かさないんですよね。ですので、こんな管理者のもとで仕事ができて幸せだろうね、今のスタッフは(笑)。
杉本さん:どうですかねえ(笑)
淺野さん:マザーズの理念が、「人生 楽しく 自分らしく」なんです。それはご利用者様だけじゃなく、働く僕らにとってもそうなんです。もし僕らが過重労働になりすぎてしまって、毎日毎日疲弊して、そんな姿でご利用者様のところへ行ったら、それはやっぱり伝わってしまうんですよね。ですので、働く環境を整え、笑顔を出せるような環境まで作っていくことが、管理者やマネージャーの仕事だと考えています。ただそこに至るまでのステップがあって、杉本君は今、そのステップを踏んでいるところなので、すごい苦労はしていると思うのですが、日々、すごいいい笑顔なんですよ。
入職の決め手は、「看護の可能性の幅を広げられる会社」と感じたから。
—おふたりの入職のきっかけを教えてください。
杉本さん:もともとは急性期の病院で、看護師としてのキャリアをスタートしました。ただ、父が亡くなった時の経験から、最期は自宅での生活というか、家族と関わる生活というのが看護の根本にあるんだなというのをずっと思っていたので、病院での看護よりも、在宅の訪問看護に興味を持っていました。そこで病院を退職して、3年ほど前に、訪問看護事業を展開しているマザーズに入職しました。
淺野さん:看護師になって初めに勤めたのが手術室なんですが、実はそこを20年弱経験しました。ひとつのことを極めたいと思っていたんです。その後、病棟も経験しました。この看護師生活の中で、手術をしても治りきらずに、そのまま退院される患者様を多く見てきました。手術をしたことによって、半身不随になってしまったり、歩けなくなってしまったりといったケースもありました。そうした患者様がご自宅に帰ったあと、どのような生活を送るのかなとか、普通に手術を受けた患者様も、自宅でどういった生活を送っているのかなとか、いろいろと考えるようになったんです。そこで、在宅の世界で今までの経験を活かせないかとの想いが強まって、マザーズに入職しました。
—手術室から訪問看護にきたことで、ギャップや戸惑いはありませんでしたか?
淺野さん:あまりなかったですね。手術室にいた頃から、救急外来や病棟へ手伝いに行ったりとか、研修を受けたりとか、手術室以外のことを学ぶ機会も多かったので、在宅に来ても、まったく違う世界だなというふうには思わなかったんです。もちろん、足りない知識は山ほどあるなとは感じましたが、逆にそれを学ぶ楽しさというか、そういうのを知ることができてワクワクでしたね、最初は。
—独立や他事業所への入職の選択肢もあったと思います。その中で、なぜマザーズを選んだのですか?
淺野さん:昔から、独立したいなという想いはありました。ただ、中途半端な想いではできないし、やはりいろいろ学んでからでないとできないかなと。そこで一旦、訪問看護を経験してからにしようと思ったんです。マザーズを選んだのは、有料老人ホームだったり、障がい者のグループホームだったり、福祉旅館の運営だったり、農福連携で障がい者の雇用に積極的に取り組んでいたりと、事業が訪問看護だけでなく、多岐にわたっていた点に魅力を感じたからです。看護だけでなく、看護の可能性の幅を広げられる会社が、マザーズだなと思って。それが入職の決め手になりましたね。
先々、マザーズで得た知識や経験を活かして独立というのも、一つの選択肢かもしれませんが、今は独立して訪問看護の事業所を運営するというよりは、看護の幅をもっと広げていけるマザーズで経験を積んだり、社会貢献をしていったりした方が、すごく人生に面白みがあるかなと思っています。ですので現時点で、独立は考えてはいないですね。
杉本さん:僕も独立を考えたことはありますが、今実際にそうしようとは思っていません。現在、マザーズでなければできなかったような、いろいろな経験をさせてもらっています。やる気さえあれば挑戦させてもらえる今の環境で、いろいろな経験を蓄えたいなと思っています。
利用者様は食べたいが、食べると病状が悪化する可能性…。そんな時は食べさせる? 食べさせない?
— 今までで一番印象に残っている利用者さんについて教えてください。
淺野さん:食べたくても食べられない、食べると誤嚥してしまって、命にもかかわってしまう利用者様がいました。ただ、その利用者様は食べることが大好きなんです。そこで食べさせて、状態を悪化させてしまうというのは、果たしていいものなのか。逆に、状態が悪くなるので食べさせない、という決断をするのか。すごく究極の選択だなと思いました。我々が普通に暮らしていると、食べることって当たり前だし、お腹がすけば好きなものを食べるっていうのが当たり前だと思っていたのが、それが当たり前じゃないっていうことに、思い知らされたんです。
その時、看護側では、「食べることを望んでいるのであれば、食べさせたい」という結論になりました。もちろん状態が悪化しないように、工夫して食べさせるは食べさせるんですが、それでやっぱりダメだったとしても、その人の想いはかなえられるんじゃないかという結論に達したんです。しかし、その利用者様が入られていた施設側の意見は、「状態を悪化させたくないので、食べさせない」というもので、最終的には施設側の意見が採用されました。ただ、もし僕だったら、食べずに後悔して死ぬよりかは、食べて後悔なく死んでいきたいなと思ったんですよね。その時に、ご利用者様の声をいかに尊重して、それを看護という形でどう提供できるかというのを、本当に利用者様に向き合って考えていかないといけないんだなと、思わされました。訪問看護の意味であったり、在宅医療の意味であったりを、本当に考えさせられた事例でしたね。
杉本さん:マザーズに入って初めて看取りをした末期がんの利用者様が、とくに印象に残っています。もともといた急性期病院でも看取りはありましたが、関わる時間が短かったので、その方々の背景をわかっているようで、わかっていませんでした。マザーズで初めて看取りをしたその利用者様とは、個人的にもすごい波長が合って、何カ月も同じように関わって、生活や今までの経歴とかいろいろお話する機会も多くありました。そこで元気なうちに、やれることはやってみようかという話になって、住み慣れたお家に帰るということを、ご家族と相談しながらやることができました。
亡くなられたあと、ご家族から「いい最期を迎えられた」というお話を聞いて、僕自身も父親が亡くなった経験から、家族の想いもすごく大事なんだなというのがわかっていたので、ご利用者様やご家族の本当の願いをかなえることの大切さ、そして、その人らしく最期を過ごすことの大切さを、再認識しました。また、それとともに、これからもこういうふうにどんどんやっていかなきゃいけないなと、改めて思いました。その後の看護観にも、つながるエピソードだったかなと思っています。
— 病院と訪問看護では、ご利用者様との関わり方がまったく違いますか?
杉本さん:病院だと治療がメインなので、治して帰るというのが第一優先になります。ですので、その方の生活は二の次になりがちなんですよね。でも、今関わっている方たちは、治療がメインではなく、その人らしさというか生活がメインなので、食べたいという方がいたら食べさせるのが正解になり得るし、人によって優先順位が変わってきます。そこが病院との、大きな違いかなと思います。
利用者様が最期の時を笑って過ごせるように、手を差し伸べて支えるのが、僕らの仕事。
— 看護を提供するうえで、大切にしていることは?
淺野さん:「患者様中心の看護」を病院時代から大切にしていて、訪問看護の世界に来てからも、やはり「ご利用者様中心の看護」を心がけています。僕自身もそうだったんですが、どうしても「自分が考える看護」を提供したくなる時があるものなんですよね。「こうしてあげるといいんじゃないか」「ああしてあげるといいんじゃないか」と。でもそれが、ご利用者様・患者様が本当に求めているものなのかなと思った時に、それは違うのではと考え、それ以来、常に患者様・利用者様をコアに置いた看護を展開するようにしています。今のマザーズの看護グループの中でも、そこは大事にされていることではありますね。
— マザーズで働く方々の共通意識として、「ご利用者様本位の看護」という想いがあるのですか?
淺野さん:現場と話をしていると、常にご利用者様のことを考えた話が出てきますし、スタッフの看護や考えを尊重する風潮も感じます。そういったところで話を聞いていると、ご利用者様の生活歴などをよく考えた看護観や、看護の仕方の意見が出てくるので、ある程度は浸透しているかなと思っています。ただ、すべてのスタッフがそう思っているかというと、まだまだ実感できない部分もあるので、もっともっとこの想いを浸透させていかないといけないと感じています。
杉本さん:会社として「人生 楽しく 自分らしく」をうたっていますが、その言葉は、訪問看護にもまさに当てはまると思っていて、その人が楽しく人生を送れるように関わることが、僕らのできることだと感じています。利用者様が、医療とやりたいこととの間で戦っているところに、手を差し伸べて、最期を笑って過ごせるように支えるのが、僕らの仕事なんです。たとえそれが世間からあまりいい目をされなくても、医療的にそれはちょっとまずいんじゃないかなと思うことでも、その人がそう過ごしたいとか、そう生きたいと望むのであれば、そこを支えるために、その人らしさを生かせるように僕らが関わるというのが、大事なのかなと思っています。それはご家族も含めての話で、利用者に関わる人たちが最期をどう過ごすかというのを、大事にしなければいけない。在宅は、そういう場所なのかなと思っています。
— 医療者側、ご本人、ご家族の想いが違う時はどのように関わっていますか?
杉本さん:やはり、話をすること。とにかく話をして、みんなが納得できる方向に行かないと、どこかで「やっぱりあの時こうしておけばよかった」という後悔が生まれてしまいます。それが一番ダメだと思っています。正解はないと思うんですが、その後悔を生まないためにどうするかということを、考えてやっていくのが大事なのかなと思います。
— おふたりにとっての「訪問看護」とは?
淺野さん:難しい質問ですよね。「看護とは?」ってよく聞かれるんですが、実は一度も答えたことがないんです。学問的な話をしてしまうと、看護学ってまだ確立されたものがなくて、「看護とはこういうものだ!」というのがないんですが、言い換えればそれは、すごく可能性があるものだと思っています。つまり、「自分たちで形にすることができるものが看護だ」と思っているんですが、現時点で「看護とは?」と聞かれた時には、「まだ見えてないです」と答えさせていただいています。多分、自分が訪問看護や看護師の人生を終えた時に初めて「あ、看護ってこういうものだったのかな」って、そこで答えが見えてくるのかなと思いながら、そこまでは常に「看護とは何なのか」ということを、探求しながらやっていきたいなと。ですので今はまだ、自分の中で「看護とは」という定義づけをしたくない、答えを出したくないという想いから、こういった答えをいつもさせていただいています。
杉本さん:僕の中では、先ほどから同じことを言っていますけど、「その人らしさを支えること」。それに尽きますね。本当に人それぞれ全部違うので、同じことがまったく通用しないんです。人はそれぞれ生きてきた背景が違うので、そこをしっかり聞いて関わっていく必要があります。その人の人生にちょっと入り込むことになるので、すごくいろいろなことがありますが、そこはやりがいになるし、訪問看護の面白いところだなと。そこがいい方向に行った時に、すごくみんなが笑顔になるので、その笑顔をどんどん作っていけたらなと思っています。